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医療トピックスダイジェスト

スカウトに医学を知ってもらうきっかけとなる話題提供です。毎週火・金に更新できるよう頑張ります。

2012年8月 2日 (木)

第35話: 無重力状態

宇宙医学の実験は宇宙でやればいいのだが、簡単に宇宙には行けない。とりあえず宇宙と同じ無重力環境を地上で作り出し、実験することになる。

Mg1 唯一、ジェット機をフルスロットルで上昇させながらエンジンを切り、弾道飛行する間の約20~25秒間、無重力状態を作り出せる。パラボリックフライトと呼ばれる方法だ。

一つ間違えば墜落するこの危険なアクロバット飛行はベテランのパイロットによってなされる。

重力変化はエンジンをフルスロットルで加速する時は2.3G、その後無重力0Gとなり、落下から機首を持ち上げて水平飛行に戻るまで1.8Gとなる。

このアクロバット飛行の中で実験するのは大変だ。しかも1フライトで十数回アクロバット飛行を繰り返す。ジェットコースターに連続して十数回乗るようなものだ。飛行機に乗り込んだ研究者も実験に参加する被験者も乗り物酔いと戦わなければならない。

Mg2_2人間は立っている時、血液は重力の作用で下半身へ行こうとする。すなわち身体には足の先の方ほど高い静水圧が生じている。ところが重力がなくなるとこの静水圧の圧勾配がなくなる。血液は身体の中心部、すなわち胸の中に集まる。宇宙では血液が身体の中心部に集まっているのである。

では、身体の中心部に血液を集めることで、宇宙に行った時と同じ循環動態が得られるのではないか。この考え方に基づいて無重力状態を地上でシミュレーションする方法が頚下水浸法(けいかすいしんほう)とヘッドダウンベッドレストである。

頚下水浸法は、空のプールに立った状態から徐々にプールに水を入れ首まで浸かる。水の静水圧で下半身に溜まった血液が中心部である胸腔内に押し上げられる。

ヘッドダウンベッドレストは、ベッドの床を6度前後傾けて頭を下にして横たわる。すると、血液は傾斜に沿って下半身から上半身に移動して中心部に集まる。

これらの方法で無重力を地上でシミュレーションし研究が進められきた。研究成果は宇宙へ行くことが当たり前の時代が来た時に役に立つかもしれない。

2012年7月25日 (水)

第34話: 宇宙医学

平成231122日宇宙飛行士の古川 聡(ふるかわ さとし)さんが167日間の宇宙滞在を終えて地球に帰還した。帰還直後の古川さんは両脇を抱きかかえられ歩くこともままならない様子であった。

宇宙はご存知のように地球と異なり、無重力状態である。宇宙飛行士が宇宙に飛び出すと、直後には顔が丸くなる、めまいがするなど宇宙酔いと呼ぶべき一過性の症状を呈する。また、宇宙に長期間滞在すると骨がもろくなる・筋肉が衰える・地球に帰った時に立ちくらみするなどの症状が出る。

宇宙に行くと人や動物、生物はどうなるのかを研究するのが宇宙医学である。よし@ローの研究テーマの一つはこの宇宙医学であった。よし@ローは宇宙から地球に帰還した時にみられる立ちくらみ=起立性低血圧の機序を明らかにしようとする研究に加わったことがある。

1998年4月18日スペースシャトルコロンビアがケネディ宇宙センターから打ち上げられた(STS-90ニューロラブ計画)。スペースシャトルはケネディで打ち上げられるが、着陸は天候により東海岸のケネディか西海岸のドライデンのどちらかを選ぶ。

地上の研究チームは東西2つに分かれて準備する。よし@ローは西海岸のカリフォルニアエドワード空軍基地内にあるドライデンフライトリサーチセンターに配属され、宇宙飛行士の帰還まで毎日実験の準備とリハーサルを繰り返した。

コロンビアは宇宙空間での作業を終えて5月3日ケネディ宇宙センターに帰還。地上での実験はケネディで行われ、よし@ローの所属したドライデンチームは即日解散帰国となった。スペースシャトルがドライデンに着陸してれば、よし@ローもちょっと有名になったかもしれない。

この研究で、宇宙空間においても地球に帰還してからも血管の緊張度を調節する交感神経活動(自律神経の一つ)の機能が重要な役割を担っていることが明らかとなり、人間が宇宙に滞在する上での基礎的データとなっている。

なーんちゃって医者のよし@ローもちゃんと研究していたことがあるのだ。

2012年6月27日 (水)

第33話: 根拠に基づいた医療 evidence based medicine: EBM

久しぶりの医療トピックスダイジェストです。

よし@ローはこの春に医師になって丸30年を迎えた。


駆け出しの研修医やレジデント(常勤になる前の病院に居残るようにして勉強するドクターの身分)の時は新しいものへの興味から病院に住んでいるかのように働いた。患者さんを診ては教科書や医学論文を読む。よし@ローの専門は神経内科だ。

神経内科と言うと、みんな心療内科とかメンタルクリニックを想像するようであるが、脳神経外科で扱う領域の内科と考えていただくのが正しい。精神症状やこころの病気は扱わず、脳・脊髄・末梢神経・筋肉の病気を対象とするれっきとした内科なのだ。

その後、大学に戻って研究所の助手となり自律神経の研究に取り組むことになった。よし@ローの研究テーマは高齢者の血圧調節における自律神経の役割と無重力環境における自律神経機能であった。

病院でなく研究機関であったために健常者を対象とする研究が多く、その後別の医大に転任したが、校風と研究内容が肌に合わず再び臨床に戻り、神経内科医として病院勤務をしている。

臨床医学はかつて経験が大切と言われたが、最近では経験よりエビデンスすなわち根拠を重んじる。経験を頼りにすることはむしろ危険で、データと根拠に基づいて医療行為を行うことが求められる。エビデンスに基づいていれば問題が生じて裁判になっても勝てるが、経験上そうであると思っても根拠のない医療行為をすれば訴えられた時、裁判で負けることになる。

医師も人間だから必ずミスを犯す。大切なことは、ミスを犯したことを反省し患者さんと家族に誠意をもって接するとともに、二度と同じミスを起こさないように対策を講じることである。医師はスカウトと同じように誠実であらねばならない。

2012年3月26日 (月)

第32話: 分子標的薬

がんの薬といえば抗がん剤による治療を想像される人が多い。従来の抗がん剤はがん細胞を殺すタイプの化学療法剤と呼ぶべきものだ。

髪の毛が抜けて、消化管の粘膜が障害されて口内炎や下痢をきたしたり、骨髄抑制をきたして白血球や血小板が減少したりする副作用が出やすい。しばらく無菌室で治療を受けることもある。

がん細胞を効率よく殺す物質を化学療法剤として利用するが、がん細胞だけでなく正常細胞も攻撃してしまう(total kill)。そのため、正常細胞にも深刻なダメージを与えることになり重い副作用が現れる。

しかし、最近の遺伝子解析から新しいタイプの抗がん剤が創られている。実は、がん細胞はやたらめったら強いと思われていたが、それなりに弱みのあることが分かった。例えば、がん細胞が増殖したり転移したりする時にがん細胞特有の遺伝子からできた産物が働く。

その働きを薬で抑えてやれば、がん細胞の増殖や転移を抑制できる可能性がある。それが分子標的薬だ。がん細胞が持っている特定の分子を攻撃目標とするから、がんに対して集中的に作用し、正常細胞まで一緒に攻撃してしまうことはない。

分子標的薬にもさまざまな副作用があるが、近い将来副作用の少ない分子標的薬が創り出されれば、がんも恐くない病気に変わる可能性が出てきた。

医学は日々進歩しているのだ。

2012年2月 2日 (木)

医療トピックスダイジェスト

ここのところ、あまりの寒さに初漕ぎにも行けず(行く根性もなく)、自転車にも乗れず(乗る根性もなく)、犬のお散歩で週末を過ごしているよし@ローです。

実は、第31話ジェネリック医薬品までが、かつてスカウトに医療トピックスダイジェストとして紹介したものです。

身体のしくみを理解したり、医学・医療の知識を増やしたり、あるいは新聞の医療関連の記事を理解したりする上で知っておくと役に立つであろうと思われる項目について書いてきました。

少し表現の悪いところとか、医学的には間違っているところもありますが、お許しください。

言い訳をさせていただくと、元々医学・医療には絶対的な答えというものはありません。現時点での答えとなります。確かに、遺伝子異常が見つかり病気の本態に迫っているものの、病気にかかるのが複雑な人間であるし、曖昧な人間(医師)が診断しているのですから同じ病気でも症状・診断・治療もいろいろになります。

この医療トピックスダイジェストを含めて私たちは溢れんばかりの情報をインターネットから入手できますが、どの情報が正しく、どの情報が間違っているかは各個人の判断に委ねられています。このダイジェストを読まれた方は、これをベースにいろいろと自分で考え調べていただき、自分なりに正しいと思う知識の記憶を作って欲しいと思います。

これからは医療トピックスダイジェストの投稿間隔が長くなるかもしれませんが、時々でも思いついた医学・医療のトピックスを皆さんに紹介していきたいと思います。

2012年1月13日 (金)

第31話: ジェネリック医薬品

新薬がめでたく発売となり、約10年間、開発メーカーは新薬の発売を独占できる。この期間にかかった経費の100~200億円を回収して利益を出せるよう販売に努力するわけだ。

約10年が経過して特許が切れると、ほかのメーカーは特許料を支払うことなくその薬を製造・販売できるようになる。最近、テレビコマーシャルでも宣伝しているジェネリック医薬品(後発医薬品)だ。

ジェネリック医薬品は、先発医薬品と化学的成分が同じものであるという評価を受ければ、発売でき開発費用がかからないので極めて安く販売できる。医療費削減という観点から好まれるし、支払いを負担する本人・家族としても同じ効果であるならありがたい話となる。

しかし、本当に同じ効果なのかは誰も知らない。中には積極的にジェネリック医薬品を採用するドクターもいるが、化学的成分は同じでも錠剤として作る時に含まれる基材・添加物などに違いがあるため吸収に差が出たりするとしてドクターはあまりジェネリック医薬品を使いたがらない。

厚生労働省は医療費抑制のために安いジェネリック医薬品を使うよう、あれやこれやの手を駆使して指導する。

ドクターのもう一つの心配は客観的データである。最近は、経験より根拠(客観的データ)に基づいた医療が重んじられる。その客観的データがジェネリック医薬品は少ない。あくまで先発医薬品と化学的成分が同じであるからそのデータを流用させていただいているに過ぎない。

厚労省の指導で次第にジェネリック医薬品を使うようになってきているが、処方するドクターにとっても、内服する患者さんにとっても安かろう悪かろうでは困るのだ。

2011年12月 9日 (金)

第30話: 薬と治験

病気の治療に薬は欠かせない。しかし、海外で使われているからすぐに日本でも使えるとは限らない。なぜなら、人種によって薬の作用・副作用・投与量が異なるからである。新しい薬が開発されてから日本の世に出るまでにはどのようなプロセスを踏まねばならないのか紹介しよう。

     まず、製薬会社は、新しい化学的成分を発見する。

     実験動物に投与して有効性、安全性を調べ、人に投与しても問題がないと判断される薬を選び出す。

     臨床第1相試験 (フェイズ1): 少人数の健康な有償ボランティアさんに治験薬を投与し、体内での動きを調べるとともに肝臓・腎臓・血球など人体にどんな有害性があるのか調べる。

     臨床第2相試験 (フェイズ2): 少数の患者さんに治験薬を投与し、その効果と安全性(副作用)を調べる。また、最適な投与量や投与期間を決める。

     臨床第3相試験 (フェイズ3): 多数の患者さんに、治験薬または同じ病気に対してすでに使用されている薬(基準薬と呼ぶ。まれに偽薬つまり何も薬が入っていないみかけのもの=プラセボ)のどちらかを投与し、その有効性と安全性を比較する。この場合二重盲検法と言う手法が使われる。お医者さんも患者さんもどちらの薬が含まれているのか臨床試験が終わるまで分からない。薬に対する先入観の影響をなくすためだ。

すべての試験で有害性が小さく、有効性が高いと判断(これを有用性が高いと言う)されると、厚生労働省から薬として認可される。

新しい化学的成分を発見するのも大変だが、すべての試験をクリアしなければならず、多くの患者さんやドクター、研究者などの人的協力、費用的な負担は莫大なものがある。また、途中で有害性が明らかになれば試験は中止となり、それまでの努力はすべて無駄になる。一般的に1万種類の化学的成分を発見して薬として発売されるのは1種類と言われる。また、開発期間としては約10年、費用は100~200億円くらいかかるらしい。なんとも、新薬開発はリスクが高い。

2011年12月 6日 (火)

第29話: おわんくらげ

下村脩(しもむら おさむ)さんがノーベル化学賞をもらったのは2008年のことである。同じ日本人として誇りに思うが、海外での研究成果となると残念にも思う。頭脳の海外流出の一つだ。

日本国内では研究費が少ないために思うような研究ができないが、アメリカなどは研究費も潤沢で研究者にとって良い国だ。業績・成果を挙げて認められれば研究費がつき職ももらえる。日本では研究費は研究に限定して使えるが、アメリカでは生活費に使うこともできる。だから貧しい国の人もチャレンジできるのである。逆に、成果が挙げられなければ、研究はおろか、アメリカで生活することもできない。すぐに失職して帰国することになる。

さて、下村さんはアメリカで研究を続け、おわんくらげの発光物質Green Fluorescent Protein (GFP) を発見し、その発光メカニズムを解明した。この業績に対してノーベル賞をいただいたわけだが、彼がGFPを発見したのは1960年代。どこがノーベル賞をもらえるほど優れていたのか?

GFPは、それが存在するだけで発光する。発光に別の要因が要らないのである。GFPの発見から約30年後GFPの遺伝子配列が決定された。更に、GFPを異種(ヒトやマウスなどのくらげではない種)の細胞に導入・発現させる技術が開発された。GFPを他の遺伝子やたんぱく質にくっつける技術も開発された。

ある遺伝子や蛋白をGFPでマークすれば、細胞に取り込まれたかどうかを発光の有無でリアルタイムにしかも生きている細胞標本で観察できる。細胞内の情報伝達メカニズムや遺伝子研究が全盛期を迎えている今GFPは当たり前のように広く使われるようになった。GFPの発見は、現代医学の発展に欠かせない物質となったのである。

2011年12月 2日 (金)

第28話: 脳死と臓器移植

人の死を判定する場合、3徴候死の時は脳を含めすべての臓器が機能停止する。しかし、脳死ならほかの臓器はまだ機能している。つまり、その臓器を使えるのである。

日本で臓器移植を前提として脳死判定を下すことが法律的に認められるようになったのはここ10年余、1997年の臓器移植法が施行されてからだ。

この法律では脳死判定の基準を満たした脳死例について本人の書面による臓器提供の意思表示と家族の了承の2つが揃えば臓器を提供することができるようになった。

しかし、この法律が施行されてから、2008年までの約10年の間に日本では76例の臓器提供が行われた。臓器移植の先進国アメリカでは毎年5000例を越える臓器移植が実施されているから、日本の移植医療はものすごく遅れている。

特に、日本では15歳未満の臓器提供が認められていなかったので、日本の子供が臓器移植を受けようとする場合は海外に行かねばならなかった。

これに対して日本でも世論が移植医療に積極的となり、2010年7月から改正臓器移植法が施行された。本人の意思表示がなくても家族が了承すれば臓器提供が可能となり、また、15歳未満の子供からの臓器提供による移植も可能となった。この法律のおかけで2010年は1年間で32名の脳死臓器移植が実施できている。

他人の臓器を移植してまで生きたいのかと臓器移植に否定的な意見もあるが、移植に救いを求め、助かる人がいることも事実である。これからとなる日本の移植医療について、自分が臓器提供を受けたいか? 臓器を提供する意思があるのか? 移植医療についてどのように考えるか? 時間のある時に考えてみて欲しい。

2011年11月29日 (火)

第26話: ボケるが勝ち

人間もボケたらおしまいだなどと言う人がいるが、ボケるが勝ちとも考えられる。

そりゃあ、人生80年ともなるとボケて当たり前。多かれ少なかれ年とともに物忘れは激しくなるものだ。しかし、もうちょっと若い50歳~70歳台でも同じように物忘れの激しくなる人がいる。

ボケる病気はたくさんある。代表的なのがアルツハイマー型認知症である。年齢とともに患者数が増加するが、今年あたりは200万人がボケて、うち100万人がこのアルツハイマー型認知症と推定されている。

この病気は、当初身体の方はいたって元気だが、物忘れを中心とした認知症状がゆっくりと進行する。物忘れが激しくなり、日時、場所などの見当識が障害され、何度も同じことを聞き、何度説明してもすぐに忘れてしまう。

次第に、洋服も着られなくなる、道に迷って帰れなくなるなどいろいろ行動ができないために人の手助けを必要とする。残念なことに、人格の変化もきたし、まさに人が変わってしまう。中には被害妄想や幻覚、暴言・暴力・徘徊・不潔行為など異常行動のみられることもある。

更に進行すると、意欲の低下が著明となって活動性が減り、小刻み歩行や前傾姿勢などの運動障害もみられ、徐々に寝たきり状態に移行する。

頭部CTスキャンやMRIでは脳萎縮がみられ、病理学的にはアミロイド蛋白が沈着(これを老人斑と呼んでいる)して、神経細胞が脱落する。

根本的な治療法は今のところない。日本ではドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンという薬が進行を遅らせると使用されている。ボケた人を看るのはとても大変だが、ボケてしまえば無の境地になれるかも。

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